PLAYERS 一般社団法人
【 レポート 】「ここでしか聴けない 視覚障害者と大企業のデザインリサーチの話」を実施しました!

プロトタイピングチーム PLAYERS はこれまでに、ミズノ・JR東日本・ブラインドサッカー協会などと、視覚障害者向け製品・サービスを共創してきました。本イベントはGAAD Japan連携イベントとして、PLAYERS が実践するデザインリサーチや、ミズノと共同企画した「持って出掛けたくなる白杖」について、視覚障害者・支援者・企業それぞれの視点から本音でトークしました。
GAAD:世界各地でデジタル分野の「アクセシビリティ」を考える一日。デジタル分野(Web、ソフトウェア、モバイルなど)のアクセシビリティを考える日として、2012年からスタートしました。毎年5月20日には世界各地でさまざまなイベント等が開催されています。
実施概要
開催日時:2022年5月19日 木曜日 19:00~21:30
開催方法:YouTube Live配信 ※UDトークによる字幕提供
参加費:無料
プログラム
19:00 オープニング
19:10 ミズノケーンにおけるデザインリサーチ
19:20 TALK ①:晴眼者アンケート
TALK ②:白杖アンケート
TALK ③:ミズノケーンST
20:50 Q&A
21:25 クロージング
司会
平岡 美樹(一般社団法人PLAYERS)
モデレーター
タキザワケイタ・中川 テルヒロ(一般社団法人PLAYERS)
登壇ゲスト

三好 直人(koorin 美容師)
視覚に障害のある美容師として、ヘッドスパをメインに仕事をしています。ミズノケーンSTユーザー

竹田 幸代(きんきビジョンサポート 代表)
消費生活専門資格をもつ重度視覚障害者として、3つの視点で見えない声を企業や行政に届ける活動を15年。「事業者と消費者の双方向コミュニケーション研究会」メンバー。住友生命や日清製粉などの企業と視覚障害者との橋渡し役を担う。その場でのリアルで素朴な声は、社内マニュアルやサイトリニューアル、製品パッケージ改善等に生かされている。日本ライトハウス情報文化センター勤務、ICT研修、相談担当。『竹田と山口のときどき役立ちラジオ』(JBS日本福祉放送)でも情報発信中!趣味はタンデム自転車ライド、モットーは「キラキラが見えなくなっても自分がキラキラしていよう!

小林 章(社会福祉法人日本点字図書館 自立支援室 サービス管理責任者・歩行訓練士)
私は歩行訓練士歴が32年になりますが、27年間は国の施設で働き、さらにそのうちの19年間は歩行訓練士の養成に携わっていました。教官時代には視覚遮断やロービジョンのシミュレーションの状態で歩く時間を多く持ちました。そして中途視覚障害を想定した場合、移動の手掛かりとして何が使えるか、様々な環境をどのように移動できるか検討する時間を費やしてきました。その結果、視覚障害があっても一歩行者として、自他ともに安全に、美しく、楽しく移動できる技術の追求が私のモットーになっています。また、白杖や石突も移動に影響を及ぼす重要な要素なので、多くのものに触れてきました。そのような立場から、白杖の開発に何らかの形で関われたら嬉しく思います。

長谷川 知也(ミズノ株式会社 営業統括部 課長補佐)
1982年 京都府京田辺市生まれ 大阪府立大学経済学部卒 2005年 ミズノ株式会社入社。現在営業統括部に所属し、国内売上拡大のための営業支援活動に従事。社内新規事業提案制度に応募、採択され、「白杖プロジェクト」を推進中。

清水 雄一(ミズノ株式会社 グローバル研究開発部)
1988年、三重県伊賀市生まれ。鈴鹿工業高等専門学校卒業後、神戸大学発達科学部に編入し、人間の動きについて研究。2012年、ミズノ株式会社に入社。現在、2022年に設立予定の新研究開発拠点のプロジェクトや、新規事業アクセラレーションプログラムの運営に従事。大企業の若手中堅有志団体の実践コミュニティ「ONE JAPAN」主催の大企業挑戦者支援プログラム「CHANGE by ONE JAPAN」1期ファイナリスト。経済産業省/JETRO主催の次世代イノベーター育成プログラム「始動」7期シリコンバレー選抜。
ミズノケーンにおけるデザインリサーチ
冒頭に一般社団法人PLAYERS 代表理事のイケノウエから、PLAYERSの活動概要の紹介があった後、タキザワよりスポーツメーカーのミズノと共同企画した新しい白杖「ミズノケーンST」の、共創プロセスについて語られました。

視覚障害をテーマにすることは決まっていたが、白杖をつくるというところまでは決まっていたわけではなく、リサーチを進める中で
・白杖を持つことに抵抗を感じる視覚障害者がいる
・白杖は結構な頻度で折れている(平均で1年あたり約1本の白杖を購入)
・白杖が折れる原因は社会側の問題が大きい(1位:自転車と衝突、2位:人と衝突、3位:車に衝突)
といった課題を発見したこと、さらに
・ミズノが白杖を開発することに対して、視覚障害者の約9割が期待している
という手ごたえを得られたことから、白杖の開発に着手しました。
PLAYERS主導でアンケートやインタビュー、ワークショップ、ユーザーテストなど、1年以上に渡って多様な視覚障害者や歩行訓練士、ガイドヘルパーなどの支援者と共創。「持って出掛けたくなる白杖」というコンセプトが導かれた経緯が振り返られました。


トーク①:晴眼者アンケート結果について
続いて5名のゲストに参加いただき、2021年9月に実施した晴眼者の「視覚障害」に関するアンケート結果について、トークを行っていきました。
晴眼者の「視覚障害」に関するアンケート
調査人数:20~60代の晴眼者(視覚に障害を持たない)の男女1,000名
https://www.players.or.jp/post/211029
<アンケート項目>
●白杖の認知
●弱視・全盲の違い
●晴眼者という言葉の認知
●視覚障害のある著名人
●視覚障害者のイメージ
●視覚障害者を見かけたけことがある?
●視覚障害者に対する声かけ
●サポート方法
●やるべきこと
アンケート結果に対してミズノの長谷川さんと清水さんからは、白杖の開発の前はまったく知識がなかったことが語られ、また視覚障害当事者の竹田さんや三好さんからは、思っていたよりも「知っている」割合が高いことへの驚きや、有名人の中にパラリンピアンが含まれなかったことへの意外さなどがあげられました。


トーク②:白杖アンケート結果について
トーク②では視覚障害者の中川がモデレーターになり、視覚障害者の「白杖」に関するアンケートの結果について感想を伺いました。
視覚障害者の「白杖」に関するアンケート
対象者:視覚障害者 261名
https://www.players.or.jp/post/210409
<アンケート項目>
●白杖使用歴と白杖購入本数
●使用している白杖の種類
●直杖に抱くイメージ
●折り畳み式白杖に抱くイメージ
●白杖が折れたり曲がったり、折れそうになった回数
●白杖が折れたり曲がったり、折れそうになった状況
視覚障害者の竹田さんや中川からは、1年に1本まではないものの実際にかなりの頻度で白杖が折れていることや、人が関与した事故の場合どう弁償するかといったやりとりが、リアルに語られました。歩行訓練士の小林さんいわく、外出の頻度や地域によって個人差も大きいとのこと。
またアンケート結果が示す通り当事者の方たちはほぼ全員、利便性から直杖よりも折りたたみを好んで使うため、ミズノへ一日も早い折り畳み式の白杖への開発リクエストがありました。


トーク③ ミズノケーンSTについて
ミズノケーンについては多くのメディアから取材されていますが、最後のトークでは「ここでしか聴けない」というイベントタイトルならではの、かなり突っ込んだトークになりました。

PLAYERS リーダーのタキザワが、ミズノでプロジェクトデザインの講演を行ったことをきっかけに、参加していた長谷川さんと清水さんが2020年7月にPLAYERSに加入。12月に実施されるミズノのアクセラレーターへの応募をターゲットにして、急ピッチでプランを進めていったそうです。
PLAYERSの活動はオンラインで毎週木曜の19時から行っていますが、その前の18時からの1時間がミズノとの定例会議としていました。コロナ禍の真っ最中だったこともあり、視覚障害者へのインタビューなどもオンラインで実施。初期の段階では、清水さんがシューズの開発をしていたことから、ブラインドサッカー選手が使うシューズや、バットやゴルフのスイングのセンシングを活用した、IoT白杖なども検討していたそうです。
白杖の開発は、ゴルフのシャフトの先端を切断し石突をつけた、原始的なものからはじまりました。カーボンむき出しの黒い直杖の試作品を持って、初めて日本点字図書館にヒアリングにいった際には、長谷川さんは「受け入れてもらえるのか」とかなり緊張していたそうですが、小林さんが「軽い!」と手から離さないほど気に入った姿をみて、手ごたえを感じたそうです。

アクセラレーターのプレゼンにはPLAYERSも参加。無事に採択されてからは、ワークショップなどで目線合わせをするなど、1年半という異例のスピードで製品化にこぎつけました。とはいえミズノにとっては、PLAYERSという外部との協業がはじめてだったことや、技術に誇りをもつ老舗ブランドとして福祉機器を開発することに対する慎重さもあって、社内外との調整役となった長谷川さんには苦労も多かったようです。
また、ミズノケーンユーザーでもある当事者の3人と小林さんに「ダメ出し」をしてもらうコーナーでは、「早く折りたたみを作ってほしい」「カラーを選べるようにしてほしい」「破損した時の移動を保証するタクシーのエリアを広げてほしい」「保証はいらないから安くしてほしい」といった要望が寄せられました。
しかし、圧倒的な軽さや洗練されたデザイン、購入から2年間の破損は新品交換する保証に対する信頼は、これらのリクエストをかすませてしまうほどの人気ぶり。
「視覚障害のあるなしにかわらず、ミズノケーンをまわりの人に自慢しています」という竹田さんや、「これまで白杖を持つことに抵抗があったけど、ミズノケーンに出会ってからは持って出かけたくなった」という三好さんの声に、「こんなことが起きたら嬉しいな…と願っていたことが、実現した。開発を進めてきて、本当に良かった」とミズノのお2人は大感激していました。

登壇者からのメッセージ
イベントの最後は登壇ゲストからメッセージをいただきました。「CSRや慈善活動としてではなく、事業として企業が白杖の開発をしたことは大きい。私たちのことを見てくれている会社があるんだと励みになった。いろんな会社がミズノを見て、追随してくれると嬉しい」という竹田さんの言葉に、長谷川さんが「まだまだ課題はある。製品も社内のコミュニケーションも改善が必要。当事者の声をしっかり聞きながら、一歩ずつ良いものをにしていきたい」と、トークをしめてくれました。

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